MerchantBank Consulting
 
 
 

M&Aにおける買収価格の調整

 ちなみに服部[2018]には、「株価は間違っていても、やはり株価です」という稲盛和夫氏の深い言葉が記されている。
Ⅰ クローバック
 日本において、クローバックという用語は、武田薬品工業が2020年度から導入すると発表したことで知られるようになった。そのせいで、クローバック=「決算内容に重大な修正や不正があった場合に役員報酬を会社に返還させる制度」と認識されているようである。
 実際には、クローバックの概念はもっと広い。M&Aの文脈で言えば、表明保証違反や一定期間におけるKPI未達等に該当した場合、あるいは提訴されて損失が発生する可能性がある場合に、売り手が買い手に買収価格の一部を返還する取り決めをクローバック(条項)と呼ぶ。(ベンチャーキャピタル含む)投資ファンドの文脈では、ジェネラルパートナーに過剰に支払われた報酬をリミテッドパートナーに返還する取り決めをクローバック(条項)と呼ぶ。
 エスクローやホールドバック(holdback)も構造は同じである。というより、クローバックを実行する手段として、エスクローやホールドバックが使われる。一度払った金員を返還させるのは(少なくとも)事務的に大変であるから、予め該当資金を確保しておく。契約で定めた期間内に損失が発生しなければ、当該資金を売り手企業の株主に支払う。損失が発生すれば、当該資金から費用を控除して、支払う。支払いの図式は、アーンアウトと同じである。KPI未達のクローバックは、まさにマイナスのアーンアウトと言える。
 アーンアウトでは、買収金額を調整するために業績やKPI等をウォッチする期間は、通常3~4年 (コロナは、この期間を1~2年に短縮したよう) である。KPI未達のクローバックであれば、期間はアーンアウトと同程度となるであろうが、表明保証違反であればもっと短いであろうし、訴訟を抱えている場合は長くなるだろう。
 日本のM&Aでクローバックが使われた事例はないと言われているし、事実と思われる。ただ、マネックスグループがコインチェックを買収した案件で使われたアーンアウトには、「一定の事業上のリスクを控除して算出される金額を追加で支払う」との条件が付されている。これは実質的なクローバックと言えるかもしれない。
 米国では、日本とは打って変わり、かなりの割合でクローバック条項が付されている。2020年は、M&A案件の25%にクローバック条項が付けられていた。2019年は、67%のM&A案件にクローバック条項が付けられていた。[*1]
 具体例としては、グーグルがキーホールを買収した案件でクローバック条項が付けられている。グーグルによる買収提案時、キーホールは、イスラエルのスカイライン・ソフトウェアというスタートアップから特許権侵害で提訴されていた。しかし、グーグルはクローバック条項で訴訟関連費用を買収額から控除するというリスク回避策を採って、キーホールの買収に踏み切った[*2]。キーホールは、現在グーグルアースで知られているサービスを開発したスタートアップで、グーグルマップの開発にも大きく貢献した。加えて言えば、キーホールのファウンダーであるジョン・ハンケは、ポケモンGOを開発したナイアンティックの創業者でもある。
 ちなみに、このディールにはアーンアウト条項も付されていた。マイルストーンは獲得ユーザー数50万であった。

 クローバック条項が、別の意味で、脚光を浴びているかもしれない。サリー・イエーツ米国司法省副長官により2015年9月9日に発出された、イエーツ・メモでは、「不正行為に関与した全ての個人を特定し、・・・」とされていた。3年後の2018年11月29日、ロッド・ローゼンスタイン副長官は「犯罪行為の主要な関与者・・・」と発言し、一旦揺り戻しが起きた。さらに3年後の2021年10月28日、リサ・モナコ副長官は、(旧)モナコ・メモを発出し、「不正行為に関与した全ての個人を特定し、・・・」とイエーツ・メモに回帰した。
 モナコ副長官は、21年10月時点で予告していたアップデートを、2022年9月15日に行った。その舞台は、ニューヨーク大学ロースクールでの講演であり、その内容は(新)モナコ・メモとして同日発表された。役員のみならず、一般社員にもクローバック条項類似の制度導入を推奨するのは、「全ての個人」を対象にしているからと考えられる。そうであれば、23年2月20日付け日経15面の記事は、ややミスリードと考えられる。
 また、BYODに関する議論であるが、正確には、エフェメラル系暗号化通信アプリの使用が問題視されている。つまり、一定時間経過するとメッセージが消えてしまうアプリを問題視している。エフェメラル系アプリをインストールした通信端末で、業務を行わないことを誓約させることは、それほど高いハードルではないと思う。

Ⅱ アーンアウト・CVR
 M&Aの世界では、アーン・アウトやコンティンジェント・バリュー・ライト(CVR)[*3]といったテクニックを使うことで、ディールを前進させることが昔から行われている。
 アーン・アウトとCVRは、よく似ている。アーン・アウトとは、「売上やEBITDA等が、予め定めた数値を超えたら、被買収企業の株主に追加支払いが発生する」という構造である。
 一方、CVRとは、「被買収企業の株主に請求権が付与され、それを買収企業が買い戻すことで、被買収企業の株主に支払いが発生する」という構造になっている。
 しかし、どちらも被買収企業の株主に、追加支払いが発生する点では同じである。両者の本質的な違いはどこにあるのか。
 アルザック(2008)には、「CVRは尺度として、一般に株価が用いられる」、とある。また、谷山(2010)には、「CVRは、株価に条件づけたペイオフを支払う契約形態である。(中略) CVRは、完全に買収企業の傘下に入らない条件で実行される」とあるが、これは誤りである。サノフィ・アベンティスがジェンザイムを買収した案件で用いられたCVRが反例である。
 実は、アーン・アウトは非公開企業向けで、CVRは公開企業向け、というのが、本質的な違いである。日本語でCVRを正しく定義している文献は見当たらない。英語だと、例えば、米法律事務所モルガン・ルイスがWebで公開している資料[*4]には、正しく紹介されている。
 被買収企業の株主に提供される「追加支払いを受ける権利」は、被買収企業が米国市場に公開していれば、SECへの登録が必要になる。そこで、煩雑なSECへの登録を避けるために、アーン・アウトは非公開企業に対して適用される。
 一方、公開企業であっても、場合によっては「同権利」を活用したいというニーズはあり得る。その場合は、同じ効用であってもCVRと呼ばれることになる。もっとも、いずれにせよSECに登録するのであれば、CVRは(ついで?に)「譲渡可能・市場取引可能」と設計することが少なくない。その場合CVRは、(結果的に)アーン・アウトとは、顕著に異なる性質をもつことになる[*5]。
 以上のような背景があるためCVRは、煩雑なSECへの登録を要しても使う価値がある、特定セクター(具体的には製薬企業)のディールに使われることが多い。
 なお、CVRには「アーン・アウト的CVR」と「価格保証的CVR」がある。アーン・アウト的CVRは、アーン・アウト同様、財務数値に応じて価値が決まる。
 一方、価格保証的CVRは、株式を対価とするM&Aあるいは株式を対価の一部に含むM&Aで、買収企業の株価の変動によって被買収企業の株主が被る損失を補償する目的で使われる。なお、将来の平均株価をトリガーとするCVRの評価をする場合には、アジアンオプションのバリュエーションが必要である。解析解はないが、近似式はいくつか存在する:幾何平均を使った近似式、Curranの算術近似式、TurnbullとWakemanによる算術近似式、Levyによる算術近似式等である。
 価格保証という意味では、米シティ・グループによる日興コーディアル・グループの完全子会社化(TOB+株式交換)で、「変動制交換比率方式」が提案されていた(ただし、実行されなかった)。
 サノフィ・アベンティスによるジェンザイム買収で重要な役割を果たしたCVRは、アーン・アウト的CVRであり、(株価ではなく)財務数値に応じて価値が決まり[*6]、公開市場で取引可能となる。ちなみに、2004年サノフィ・サンテラボがアベンティスと合併した時も、合併比率の調整がなされている。サノフィ・サンテラボの新薬開発が失敗した場合には(サノフィの価値が下がるから)、ワラントを発行するという内容であった。さて、アーン・アウトやCVRは日本で有用だろうか。
 アーン・アウトあるいはアーン・アウト的CVRは、極めて優秀な人材をM&A後に退社させないために用いられることが多い。極めて優秀な人材の多大な貢献で画期的な製品を生み出し、収益を上げることが期待される企業が被買収企業である場合には、有用であろう。
 日本であれば、ゲーム会社やソフトウェア開発会社が該当するだろう。製薬企業のディールにも多用されるようになれば、創薬系ベンチャーの研究開発力の観点から見れば、望ましい状況と言えるだろう。
 一方、価格保証的CVRであるが、以前の日本であれば有用ではなかった。長らく、日本で株式を対価とするM&Aは、合併と株式交換であった。日本では、まず合併や株式交換を将来実行することが発表され、肝心の合併比率や株式交換比率は、後日発表された。また、そもそもM&Aの意思表明をしてから実行されるまでの時間が長い。このような環境では、価格保証というスキームに、大きな価値はなかった。合併であれば日本の場合、極端に対等合併を好む傾向があるから、やはり価格保証というスキームが馴染まなかった。
 2021年4月1日、「株式対価M&Aを促進するための措置の創設」を含む「所得税法等の一部を改正する法律」が関連政省令と併せて施行され、課税の繰り延べを含めて、株式交付が実践的になった。つまり、買収対価として株式と現金に、差異はなくなったと考えて良い。また2019年6月28日に、経済産業省が「公正なM&Aの在り方に関する指針―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて」公表したことにより、公正な価格への意識が一層高まったと考えられる。
 このため、2021年時点では、日本でも価格保証的CVRは有用と思われる。

Ⅲ CVR及びアーンアウトの事例
 以下のような例がある(完全性や網羅性はないことに注意)。
(1)製薬企業のCVR
 ◇ 1989年Merrel DowによるMarion Laboratiries買収[*7]
 ◇ 1990年Rhone-PoulencによるRorer買収
 ◇ 2003年OSI PharmaceuticalsによるCell Pathways買収
 ◇ 2004年ViroLogicによるAclaraBioSciences買収
 ◇ 2008年Endo PharmaceuticalsによるIndevus Pharmaceuticals買収
 ◇ 2008年FreseniusによるAPP Pharmaceuticals買収
 ◇ 2008年ViroPharmaによる LevPharmaceuticals買収
 ◇ 2008年Ligand PharmaceuticalsによるPharmacopeia買収
 ◇ 2009年Ligand PharmaceuticalsによるNeurogen買収
 ◇ 2010年Ligand PharmaceuticalsによるMetabasis Therapeutics買収
 ◇ 2010年Emergent BioSolutionsによるTrubion Pharmaceuticals買収
 ◇ 2010年CelgeneによるAbraxis BioScience買収
 ◇ 2013年Cubist Pharmaceuticals,IncによるTrius Therapeutics買収[*8]
 ◇ 2019年Bristol-Myers Squibb によるCelgene買収[*9]
 ◇ 2019年IpsenによるClementia Pharmaceuticals買収[*10]
 ◇ 2023年協和キリンによるOrchard Therapeutics買収。買収金額US$16/ADS、CVR:US$1/ADS[*53]
 ◇ 2024年アストラゼネカによるFusion Pharmaceuticals買収。買収金額US$21/株、CVR:US$3/株[*65]
 ◇ 2025年サノフィによるBlueprint Medicines買収。買収金額US$129/株、CVR:US$2/株+US$4/株[*66]
 ◇ 2025年ファイザーによる Metsera[*73]買収[*74]。買収金額US$65.60/株、CVR:US$20.65/株[*75]

(2)製薬企業以外のCVR
 以下のような例がある。数が少ない。
 ◆ 1994年パラマウントを巡るQVCとバイアコムとの争い[*11]
 ◆ 2000年ジェネラル・ミルズによるピルズベリー買収(合併)

(3)アーンアウト
 以下のような例がある(完全性や網羅性はないことに注意下さい。なお、誤植を修正しました)。
 1) 2004年:マイクロラインがペンタックス社に買収された案件。買収金額は、$47mil、アーンアウト$1mil。
 2) 2004年:レイカル・インスツルメンツ[*12]が、EADSに買収された案件。買収金額は、$105mil。アーンアウト$25mil。
 3) 2004年:NetPress Solutions[*13]とHeidelberg Digital[*14]がコダックに買収された案件。買収金額は最大$150mil。
 4) 2004年:Performics[*15]がDouble Click[*16]に買収された案件。買収金額$58mil。アーンアウト$7mil。
 5) 2005年:スカイプがイーベイに買収された案件[*17]。買収金額$2.6bil、アーンアウト$1.5bil。
 6) 2005年:LowerMyBill.com[*18]がエクスペリアン[*19]に買収された案件。買収金額は$330mil。アーンアウト$50mil。
 7) 2006年:ハーモニクス・ミュージック・システムズ[*20]がMTVネットワークス[*21]に買収された案件[*22]。買収金額$175mil。アーンアウトはEBITDAが$32milを超えた場合に超過額の3.5倍を支払う(上限なし)というもの。
 8) 2007年:クラブ・ペンギン[*23]がウォルト・ディズニーに買収された案件[*24]。買収金額$350mil、アーンアウト$350mil。
 9) 2009年:リテール・コンバージェンス[*25]がGSIコマース[*26]に買収された案件。買収金額$180mil、アーンアウト$170mil。
 10) 2010年:Playdom[*27]がウォルト・ディズニーに買収された案件。買収金額$563mil、アーンアウト$200mil。
 11) 2010年:ngmoco[*28]がDeNAに買収された案件。買収金額$303mil、アーンアウト$100mil。
 12) 2010年:Ion Torrent[*29]がLife Technologies[*30]に買収された案件。買収金額$725mil。アーンアウト$350mil(最大)。
 13) 2011年:HauteLook[*31]がノードストローム[*32]に買収された案件。買収金額$180mil、アーンアウト$90mil。
 14) 2011年:PopCaP Games[*33]がエレクトロニック・アーツ[*34]に買収された案件。買収金額$750mil、アーンアウト$550mil(最大)。
 15) 2011年:OmniProbe[*35]が、オックスフォード・インスツルメンツ[*36]に買収された案件。買収金額$19.2mil。アーンアウト約$19mil。
 16) 2012年:Actavis Group[*37]がWatson Pharmaceuticals Inc[*38]に買収された案件。買収金額€4.25bil、アーンアウト€0.25bil[*39]。
 17) 2012年:InnovAsian Cuisine Enterprises[*40](の株式51%)がニチレイによって買収された案件。買収金額$5.4mil、アーンアウト$5.6mil[*41]。
 18) 2017年:3ミニッツ[*42]がグリーに買収された案件。買収金額42億円。アーンアウト:今後3事業年度に及ぶ3ミニッツ社の業績に応じ、追加代金を支払う(内容は非開示)。
 19) 2018年:コインチェック[*43]がマネックスに買収された案件。買収金額36億円。アーンアウト:今後3 事業年度に及ぶコインチェックの業績(当期純利益)に応じ、最終利益(当期純利益)の2分の1を上限に支払う。
 20) 2018年:Quartz[*44]がユーザベース[*45]に買収された案件。買収金額$100mil。アーンアウト$35mil[*46]。
 21) 2022年:Nimbus Therapeutics[*47]の子会社ニンバス・ラクシュミ[*48]が武田薬品工業に買収された案件。買収金額$4bil。アーンアウト$2bil(最大):売上高が$4bil、$5bilを越えた場合、それぞれ$1bilを支払う。
 22) 2023年:cargo-partner GmbH[*49]他63社が、Nippon Expressホールディングスに買収された案件。買収金額€845mil。アーンアウト€555mil(最大):対象会社の業績が株式譲渡契約において規定された一定の財務指標を達成することが条件[*50]。
 23) 2023年:Qpex Biopharma[*51]が、塩野義製薬に買収された案件。買収金額US$100mil。アーンアウトUS$40mil(最大):開発のマイルストーンの達成に応じて支払う。
 24) 2023年:JPI[*52]が、住友林業に買収された案件。買収金額US$158mil。アーンアウトUS$57mil(最大):買収後3年間の"業績"に応じて支払う。
 25) 2023年:サントリーの関連会社クルボアジェ[*54]が、伊カンパリ・グループ[*55]に買収[*56]された案件。買収金額US$1.32bil。アーンアウトUS$1.2bil(最大)。2028年に売上目標が達成されたら、29年に支払われる[*57]。
 26) 2023年:米Xperi Inc.のオート・センス事業[*58]が、スウェーデンのトビー[*59]に買収[*60]された案件。買収金額US$45mil。アーンアウトUS$19mil。販売台数及び導入目標を達成した場合、2031年($45milの支払いが終わる年)に支払われる[*61]。
 27) 2025年:米Curio Bioscience, Inc.[*62]が、タカラバイオ[*63]に買収された案件。買収金額US$40.5mil。アーンアウトUS$15mil(最大)。複数の開発マイルストーンおよび売上マイルストーンの達成時に支払われる[*64]。
 28) 2025年:英オックスフォード・インストゥルメンツ[*67]のオックスフォード・インストゥルメンツ・ナノサイエンス[*68]が、米Quantum Design[*69]に買収された案件。買収金額£60mil。アーンアウト£3mil(最大)。将来の売上に連動して支払われる。
 29) 2025年:レナリス・ファーマ㈱[*70]が中外製薬に買収された案件。買収金額150億円±α。アーンアウト160億円(最大[*71])+sparsentan[*72]の日本、韓国、台湾における純売上高に連動する対価。
 30) 2026年:イスラエルQuantum X Labs[*76]がイスラエルViewbix[*77]に買収された案件。買収対価は株式[*78]。買収金額は7,913,595株。アーンアウトは12,702,847株[*79]。アーンアウトは買収金額のおよそ1.6倍に相当する。Viewbix株価≃US$1.64として、買収金額≒US$13.0mil、アーンアウト≒US$20.8mil。

【脚注】
*1 https://citywireusa.com/registered-investment-advisor/news/deal-structures-shift-to-give-sellers-more-certainty/a1383876
*2 ビル・キルディ(大熊希美訳)、NEVER LOST AGAINグーグルマップ誕生、TAC出版、2018
*3 E.アルザック(斎藤進 監訳、菅原・桂・上木原 訳)、合併・買収・再編の企業評価、中央経済社、2008、には「条件付価額受領権」という訳が付されている。なお「不確定価額受領権」という訳語もあるようである。協和キリンがOrchard Therapeuticsを買収した案件(23年10月)のプレスリリース(https://www.kyowakirin.co.jp/pressroom/news_releases/2023/pdf/20231005_02.pdf)には「成功対価受領権」という訳語が付いている。これは、アーンアウト型CVRでは、正しいだろう。
*4 Morgan Lewis, "Preparing for a Biotechnology M&A ? Corporate and Regulatory Insight to Keep Ahead of the Competition", October 28, 2010
*5 CVRであってもSECに登録しなくてよい場合がある。その場合の要件(5つ)は、ノーアクションレターを通じて、SECが明らかにしている。*4の資料p.33を参照。
*6 プレスリリースによれば、サノフィアベンティスがジェンザイムの株主に割り当てるCVRは最大で$14の価値を持つ。より詳細には、以下のような価額が付く(全てを網羅していないことに注意)。
・ 白血病用医薬品Lemtradaの、(難治性中枢神経疾患である)多発性硬化症への適用拡大がFDAによって(最終的に)認められれば、CVRに$1の価額が付く。
・ 全世界での正味売上(注:返品を除いた売上)が$1.8bilを越えたらCVRに$3、$2.3bilを越えたら更に$4(つまり合計$7)、$2.8bilを越えたら更に$3(つまり総計$10)の価額が付く。
*7 67%の持分取得。ちなみに、マリオン・メレル・ダウ、仏ルセル・ウラアと米ヘキスト・セラニーズが合併してヘキスト・マリオン・ルセルが設立。このヘキスト・マリオン・ルセルは仏ローヌ・プーラン・ローラーと合併し1999年アベンティスが誕生した。さらに、アベンティスとサノフィ・サンテラボが合併することで、サノフィ・アベンティスが生まれた。
*8 $13.50ドル/株、総額$707milのディール。CVRは、販売マイルストーン達成を条件に、最大$2ドル/株。CVRを含む買収総額は最大$818mil。
*9 ニューヨーク証券取引所で取引されていたCVRが、2021年1月1日付けで失効した。3つ存在するマイルストーンの一つである、2020年12月31日までのFDA承認が取得できなかったため。BMSが承認申請していたのは、B細胞活性化を制御するB細胞特異的分子「CD19」を標的とした再発・難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫のCAR-T細胞療法。
*10 CVRは、最大最大$6ドル/株。CVRを含む買収総額は、最大で$1,310mil。
*11 当該ディールでは、バイアコムは現金と株式の組み合わせで買収提案していた。バイアコムの株価が一定価格に達しなかった場合、追加で株式を発行するという態様のCVRを付していた。
*12 電子機器の測定器メーカー/航空防衛関連システムのテストベンダー。
*13 デジタルカラー印刷の会社。Heidelberger Druckmaschinenとコダックのジョイントベンチャー。
*14 デジタルモノクロ印刷の会社。Heidelberger Druckmaschinenの子会社。
*15 アフィリエート・マーケティングの会社。
*16 ネット広告会社。
*17 イーベイは2009年、スカイプを投資ファンドグループに売却した。同グループは、シルバーレイクが中心となって構成されている。
*18 ローンの借り手と貸し手を結びつける米サイト運営会社。
*19 エンタープライズ・ソフトウェアを開発・販売している英国企業。
*20 音楽ゲーム会社。
*21 バイアコムの事業部門の一つ。
*22 ハーモニクスは投資会社コロンバス・ノバに売却されたことが2010年12月23日に発表された。
*23 SNS/仮想空間運営会社。
*24 $500milを提示したソニーとの交渉が決裂、最終的にディズニーが買収。この2社以外にも、AOLやバイアコムが応札していたようである。
*25 プライベート・セール・サイト運営会社。
*26 電子商取引市場運営会社。
*27 オンライン・ソーシャル・ゲーム会社。
*28 ゲーム開発会社。
*29 新型シーケンサー開発会社。
*30 バイオテクノロジー用ツール開発会社。
*31 プライベート・セール・サイト運営会社。
*32 大手百貨店。
*33 ゲーム開発会社。
*34 ゲーム開発会社。
*35 ナノスケールでのマニュレーションを可能にする製品を製造販売している米社。
*36 微小スケールでの分析やマニュピレーションを行う製品の製造販売会社。英オックスフォード大学初のスピンアウト企業。
*37 (アイスランド及び)スイスに本社を置くジェネリック医薬品メーカー。日本のあすか製薬とJV「あすかActavis製薬」を設立していたが2017年4月1日付けで、あすか製薬が吸収合併した。
*38 米ジェネリック医薬品メーカー。
*39 2012年の業績によって決定する。
*40 米食品企業。
*41 3年間(2012、13、14事業年度)の業績により決定。食品企業のアーンアウト・ディールは珍しい。
*42 女性向け動画メディアなどを運営する企業。
*43 暗号資産(仮想通貨)取引所を運営する企業。
*44 米経済メディア運営会社。
*45 日本の経済メディア運営会社。
*46 アーンアウトの詳細は以下の通り。新株予約権が最大2500万ドル、現金が最大1000万ドル。マイルストーンは、Quartz社の2018年12月期における(所定の条件を満たす)売上高と期末時点における有料課金ユーザー数。
*47 酵素(多くは、リン酸化酵素)を創薬ターゲットとする。モダリティは、低分子化合物。計算化学(分子動力学)をコア技術とする。そこに、生物物理学や構造生物学・タンパク質科学、遺伝学等の知見を加えて、創薬ターゲットをスクリーニングしている。
*48 実態として、選択的TYK2(チロシンキナーゼ2)アロステリック阻害剤の獲得。TYK2は、免疫シグナル伝達を仲介する重要なシグナル伝達キナーゼ(※キナーゼ=リン酸化酵素)。ニンバスは、遺伝子研究により、TYK2の変異が、乾癬を含む多数の自己免疫疾患及び炎症性疾患と関連していることを明らかにした、と主張している。ニンバスの選択的TYK2アロステリック阻害剤は、AI由来の臨床パイプライン資産だという。
👉 ニンバスから導入した乾癬治療薬候補の29年3月期売上高予想は590億円らしい(予想は、みずほ証券)。出典:週刊東洋経済2024.10.5、p.43
*49 航空・海上フォワーディングを主とする物流事業。製造事業者の生産拠点の多い中東欧に強固な事業基盤を有し、アジアー欧州間のトレードレーンにおける貨物取り扱いに強みを有する(cargo-partnerの株式取得(子会社化)について[*50]より引用)。
*50 cargo-partnerの株式取得(子会社化)について(https://pdf.irpocket.com/C9147/bU43/hx2Z/glYq.pdf)、23年5月12日、3頁。ロジスティクス分野でのアーンアウト・ディールは珍しい。
*51 抗菌剤の研究開発を行っている創薬スタートアップ。本社所在地は米加州サンディエゴ、創業は2018年。β-ラクタマーゼ阻害剤Xeruborbactamの治験を実施中。β-ラクタマーゼはβ-ラクタム抗生物質を分解する酵素。細菌は、β-ラクタマーゼ(による抗生物質の効果を不活性化すること)により耐性を獲得する。
*52 米テキサス州とカリフォルニア州で集合住宅の開発事業を行っている企業。住友林業のプレスリリース(https://sfc.jp/information/news/pdf/2023-09-29-03.pdf)によると、JPI社は『集合住宅の開発に関する土地取得・開発管理・施工管理・資産管理機能を保有。賃料を抑えた集合住宅から高級集合住宅まで幅広く開発しており、2022年の着工戸数は全米8位と安定した成長を続けている』。
 全米住宅建設業協会や全米集合住宅協議会によると、米集合住宅市場は、23年~24年にかけて軟調と予測されている。アーンアウトは、このような状況を反映しているのだろう。
*53 被買収企業Orchard Therapeuticsは英国企業で、ADS(米国預託株式)が米国市場で取引されている(つまり、米国の"上場"企業)。Orchardは、希少疾患を対象とした遺伝子治療薬を開発しており、造血幹細胞遺伝子を改変するというアプローチに特色がある。
 買収金額は、US$16/ADSで、CVRはUS$1/ADS。US$16は、過去30日のVWAPに144%のプレミアムが加えられた金額。買収スキームはスキーム・オブ・アレンジメント(SoA)、買収総額約US$387.4mil(CVR込みだと、約US$477.6mil)。
 当該CVRは「譲渡不可」で、アーンアウト型。条件は、FDAの承認(処方薬ユーザーフィー法が課す目標・承認審査期限は24年3月18日)。FDA審査の対象となっている薬は、早期発症の異染性白質ディストロフィーを対象としている。
 少ないCVRと大きなプレミアムから、協和キリンは「FDA承認(とOrchardの技術)」を信認しているが、市場は信認していない、と考えられる(規制当局の承認等を、通常、市場は織り込まない)。
*54 買収対象は、やや複雑であるが、以下の通り:"トップ4"の歴史的コニャック・メゾンであるクルボアジェのオーナー「クルボアジェS.A.S.」の株式資本を100%保有する、ビームホールディング・フランスS.A.S.の発行済株式資本100%。S.A.S(Société par action simplifié)は、単純型株式会社を意味する。フランス法における新しい会社形態で、出資者は1名以上、最低資本金規制なし。
 買収対象には、2023年10月31日時点で約3億6,500万米ドルの簿価を持つ熟成中のブランデー在庫が含まれており、将来のブランド開発を支えるバランスの取れた熟成年数で構成されている。他には、商標、蒸留所、倉庫、ブドウ園、ビジターセンター、シャトー、ブレンド施設、熟成セラー、自動瓶詰工場からなる包括的な生産施設も含まれる。
*55 イタリアの酒造メーカー。ポートフォリオは、食前酒・テキーラ・バーボン及びコニャックの4つ。基本的に、M&Aで成長を遂げてきた(例えば、仏を拠点とする蒸留酒メーカーの買収は2016年以来7件目)。M&Aは、同業界の基本的な成長戦略であり、ディアジオやペルノ・リカールも採用している(広く言えば、ビールメーカーやサントリーも同じ)。
*56 プレスリリース(https://www.camparigroup.com/sites/default/files/downloads/2023_12_14%20Courvoisier%20Press%20Release%20ENG.pdf)によれば、12月14日に独占交渉を開始し、サントリーにプットオプションを与えた、となっている(つまりfeeは、カンパリに支払われているはず)。
*57 足元で、コニャックの売上は鈍化しており、クルボアジェの10月末までの10ヶ月間の売上高は、前年同期比で33%減少している(出所:https://www.thedrinksbusiness.com/ja/2023/12/campari-to-buy-courvoisier-for-us1-32bn/)。一方で、カンパリは買収企業を、買収後に大きく成長させた実績がある。それらを背景にアーンアウト・ディールとなったのだろう(ディールをクローズさせるためには、合理的な発想)。
*58 正確には、DMS(運転者モニタリング・システム)、OMS(同乗者モニタリング・システム)などの自動車向けセンシング・ソリューションを提供するオート・センス事業を含む、FotoNation Ltd.が買収対象。DMS/OMSは、センサーを使用して運転者・同乗者の状態を分析し、状態に応じて、「警告を発する、ブレーキをかける、あるいは自律的に車体の動きを制御する」。
*59 アイトラッキングのグローバルリーダーを自任している。トビーの技術・ソリューションは、自動車、拡張現実、ゲーム、ヘルスケア等多くの分野に展開されている。
*60 買収契約は23年12月13日に締結されている。買収金額US$45milのうち、US$30milを、約束手形(金利8%)で2027年から3年かけて(27~29年まで)支払う。利息も同じタイミングで支払う(つまり年1回まとめて払う)。US$15milは、2028年から4年かけて(28~31年まで)支払われる。
*61 出所:https://a.storyblok.com/f/149538/x/9508a2f498/tobii-acquires-autosense-investor-presentation-13-dec-2023.pdf
*62 空間トランスクリプトーム解析用試薬を開発する米スタートアップ。設立は2021年1月。空間の特定領域において(位置情報を保持したまま)、ターゲットの特徴を網羅的に評価する解析技術を空間トランスクリプトーム解析と呼ぶ(らしい)。ここで言うターゲットとは、遺伝子やタンパク質である。空間トランスクリプトーム解析により、「細胞間の相互作用や空間的な構造との関連性が明らかになる」とされる。トランスクリプトームとは、細胞内の全転写産物を指し、トランスクリプトームの大半は、タンパク質の情報を持たないノンコーディングRNA(ncRNA)である。
*63 正確には、タカラバイオ株式会社の100%子会社であるTakara Bio USA Holdings,Inc.が買収主体。
*64 出所:https://www.takara-bio.co.jp/ja/ir/news/auto_20241224543715/pdfFile.pdf
*65 出典:https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2024/2024060401.html及びhttps://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2024/2024031901.html 
1⃣ 概要・・・被買収企業Fusion Pharmaceuticals(以下、フュージョン)は、NASDAQ上場企業だった。買収発表が24年3月19日、買収完了が同年6月4日。フュージョンは、がん治療を目的に放射性医薬品を開発している企業。放射性医薬品自体は、「放射線を放出する能力(つまち、放射能)を有する元素」を用いた医薬品を指す。薬物送達システム(いやゆるDDS)が鍵であり、放射性医薬品向けDDSが発展したことで近年注目を浴びている。フュージョンは、アルファ粒子(=ヘリウム4原子核)放出するペイロード🐾1を悪性腫瘍(悪性新生物)に選択的に送達する技術に特徴を持つ(とされる)。
2⃣ 取引条件・・・買収金額は、US$21/株で、CVRはUS$3/株。US$21/株は、全額現金で支払われる(キャッシュ・トランザクション)。この金額は、フュージョンの終値(24年3月18日)$10.64に97%のプレミアム、買収発表前30日間の売買高加重平均価格(VWAP)$11.37に85%のプレミアムを上乗せした金額。買収金額は約US$2bil(CVR込みだと、およそUS$2.4bil)。当該CVRは「譲渡不可」で「アーンアウト型」。「規制マイルストーン」🐾2を達成した場合に、現金で支払われる。CVR込みの金額だと、プレミアムは126%(対終値)、111%(対VWAP)になる。
3⃣ パイプラインについて・・・フュージョンの主要パイプラインFPI-2265は、遠隔転移を伴う去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)向けで、mCRPCに高発現するタンパク質である前立腺特異的膜抗原(PSMA)を標的としており、買収完了時点(24年6月)で未承認(フェース2臨床試験中)。FPI-2265に用いる放射性物質は、自然界には存在しないアクチニウム225であり、がん治療効果が高いことが広く確認されている。イーライリリーが(23年10月に)およそUS$1.4bilで買収したポイント・バイオファーマも、アクチニウム225を使い、前立腺がんを標的としている。ブリストル・マイヤーズスクイブが(23年12月に)およそUS$4.1bilで買収したレイズバイオの標的は、肺や肝臓とされる。ノバルティスが提供しているルタテラは、放射性物質としてルテチウム177を使い、神経内分泌腫瘍を対象とする。プルビクトは、ルテチウム177を使い、前立腺がんを対象としている(標的は、FPI-2265と同じPSMA)。
🐾1 放射性物質がDDSで運ばれるので、当該放射性物質は、ペイロードと表現されている。抗体薬物複合体においても、薬物はペイロードと表現される。この場合、抗体が送達を担う。
🐾2 財務指標を基準としない、CVRやアーンアウトは珍しい。放射性物質を扱うので、特別な規制をクリアする必要があるのだろうか?

*66 出典:https://www.sanofi.com/en/media-room/press-releases/2025/2025-06-02-05-00-00-3091541
1⃣ 概要・・・被買収企業Blueprint Medicines(以下、ブループリント)は、NASDAQ上場企業。2025年6月2日に買収契約締結を発表。ブループリントは、KIT遺伝子変異に関連した疾患の治療薬開発を専門としている。KIT遺伝子の変異は、消化管間質腫瘍(GIST)、全身性肥満細胞症(SM)、急性骨髄性白血病(AML)などの疾患に関与するとされる。ブループリントは、Ayvakit(アバプリチニブ)という米FDA承認薬を有する。Ayvakitは、進行性全身性肥満細胞症(ASM)および低悪性度全身性肥満細胞症(ISM)という”希少疾患”の治療薬として承認されている唯一の薬剤🐾3で、驚くことに『経口薬』である。
 肥満細胞(マスト細胞)🐾4症とは,皮膚または他の組織及び器官への肥満細胞浸潤を特徴とする疾患群🐾5であり、皮膚に限局する「皮膚肥満細胞症」と、皮膚以外にも病変が存在する「全身性肥満細胞症」に分けられる🐾6。ブループリントにはAyvakit以外にも、どちらも経口薬である、エレネスチニブとBLU-808というパイプラインを有する。エレネスチニブは、より選択性が高いKIT阻害剤(☞3⃣参照)で、第2/3相試験を行っている。BLU-808は、より広いKIT変異疾患に対応する。
2⃣ 取引条件・・・買収金額は、US$129/株で、CVRはUS$6//株(詳細は、後述)。US$129/株は、全額現金で支払われる(キャッシュ・トランザクション)。この金額は、2025年5月30日のブループリントの終値に対して約27%のプレミアム、および2025年5月30日時点の30営業日の出来高加重平均価格(VWAP)に対して約34%のプレミアムとなる。CVRを合わせると、このプレミアムは2025年5月30日の終値に対して約33%、および30営業日のVWAPに対して約40%。買収総額は、約US$9.1bil、CVR込みで約US$9.5bil。当該CVRは「譲渡不可」で「アーンアウト型」。
 CVRは、㊀BLU-808の臨床開発マイルストーン達成を条件としてUS$2/株、㊁BLU-808の薬事承認マイルストーン達成を条件としてUS$4/株、が現金で支払われる。
3⃣ パイプライン・・・Ayvakitは、活性化したKIT遺伝子の変異およびPDGFRA遺伝子の変異を起因とする変異キナーゼに結合して、活性を阻害する(従って、GISTにも適応がある→🐾3)。エレネスチニブは、KIT-D816V阻害剤である。SMの90~95%は、KIT-D816V遺伝子変異によって引き起こされるとされており、SMにピンポイントで適用を絞っていると考えられる。エレネスチニブに対して実施されている臨床試験は、ISM及びくすぶり型SM🐾7を対象としている。KIT-D816V阻害剤は、NASDAQ上場企業コージェント・バイオサイエンシズも開発している(ベズクラスチニブ)。
🐾3 正確には、ASMとISMに加えて、PDGFRAエクソン18変異を有する「切除不能または転移性」消化管間質腫瘍(GIST)の成人に適応がある。PDGFRAは、GISTの原因遺伝子と考えられている。なお、ASMには、関連造血腫瘍を伴うSM、肥満細胞白血病が含まれる。Ayvakitは希少疾患向けの薬剤であるが、2024年にUS$479mil、2025年第1四半期には約US$150milの売上を達成している。
🐾4 気管支、鼻粘膜、皮膚など外界と接触する組織の粘膜や結合組織に存在する、造血幹細胞由来の細胞。炎症や免疫反応などの生体防御機構に重要な役割を持つ。肥満細胞は、肥満症とは関係ない。
🐾5 SMは全身掻痒感、紅潮や消化管潰瘍などの全身症状をきたし高頻度で致死的なアナフィラキシーショックに至る、難治性の疾患である。出典:https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/163308。なお、SMの太宗は、最も悪性度が低い(死亡リスクは低い)ISMである。
🐾6 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/7/110_1467/_pdf
🐾7 血清トリプターゼのような血中酵素が高値となることで示される肥満細胞数がより多くなって同定されるが、結果として生じる臓器障害は認められない。出典:https://www.cancerit.jp/gann-kiji-itiran/ketueki-syuyou/post-26730.html
*67 事業内容は、「科学研究機器、半導体プロセス装置、分析機器の開発・販売」。
*68 オックスフォード・インストゥルメンツの「量子に特化した事業部門」。2025会計年度の売上は約£59mil、調整後営業利益は£1mil。
*69 多様な測定機能を備えた、自動材料特性評価システムのリーディング・カンパニーらしい。1982年にカリフォルニア州サンディエゴで設立。
*70 sparsentan(という医薬品候補(⤵*72))の開発と販売を目的に設立された会社らしい。sparsentanは、米Travere Therapeuticsからの導入品で、レナリス社は「日本、韓国、台湾における独占的な開発・販売権」を有する。出典:https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20251024170000_1529.html
*71 sparsentanが『巣状分節性糸球体硬化症』へ適応拡大されれば、"最大"が満たされるのだろうか?
*72 希少難治性腎疾患である、IgA腎症を主要適応症とする経口薬。米国及び欧州で承認済。アジアでのフェーズ3終了、日本でフェーズ3実施中(i.e.承認は間違いないという状況🐾8)。中外製薬は、sefaxersenというIgA腎症を予定適応症とする核酸医薬品を有するが、作用機序が異なるため有意なディールとする。
🐾8 にしては、アーンアウトの割合が高い。とすると、やはり*71か?
*73 Metsera及び肥満治療薬: 
(1) 概要
 Metsera(メッツェラ)は、肥満症治療薬を開発している米NASDAQ上場企業。Population Health Partners(PHP)💵とARCH Venture Partnersにより、2022年に設立された。24年4月のシリーズAでUS$290mil、11月のシリーズBでUS$215milを調達。シリーズAには、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2が参加。25年2月に、IPO(公開価格US$18/株)。なお、今回のディールにおける買収価格の調整手法は、被買収企業が上場企業なのでアーンアウトではなく、CVRとなる。
💵 ベンチャー・キャピタルとプライベート・エクイティが融合した企業形態、とする。2020年設立で、米加州サンフランシスコに拠点を置く。ベンチャー・クリエイションを行っており、該社サイト(https://populationhp.com/investments)によると、4社設立している。また、PHPには、成功へと導く錬金術がある(https://populationhp.com/thesis)らしい。ファイザーやThe Medicines Companyの出身者がいるらしい。The Medicines Companyは、コレステロール降下剤を開発していたバイオ企業で、2019年にノバルティスが約1兆円で買収した。
(2) 肥満症治療薬・概観
 肥満症に対する、メディカル・ニーズ/事業機会は認識され、肥満症治療薬開発は行われていたものの、有効(かつ安全なーあるいは忍容性が高い)薬剤は上市されていなかった。というわけで、最初の肥満症治療薬は、GLP-1受容体💉1作動薬を肥満症患者向けに適応拡大したウゴービ(デンマークのノボ・ノルディスク社💉2製剤)と考えて良い。続いて、GIP💉3/GLP-1受容体作動薬のマンジャロ💉4(米イーライ・リリー社製剤)が続いた。イーライ・リリーが臨床試験中の、トリプルG受容体💉5作動薬レタルトルチドは、さらに体重削減能力が高い、とされる。
 ウゴービとマンジャロは、23年にブロックバスターの仲間入りをした。
💉1 GLP-1=グルカゴン様ペプチド1。
💉2 23年9月、欧州企業の中で時価総額首位となった(LVMHを抜いた)。なお、25年11月7日の株価は、24年12月11日につけたピークに比べて4割の水準。なお、イーライ・リリーは、米国市場に上場している企業の時価総額順位で10位に位置している(as of 25年11月10日)。マンジャロ一発でここまで上り詰めたわけだが、先例は以前にもあって、有名所では、旧グラクソの胃潰瘍治療薬ザンタックがあげられる。ブロックバスターと言う名の「始祖の巨人」であり一発で、グラクソを世界一に押し上げた。ただし、発がん性が疑われたため販売中止となった(2020年春に米FDAが市場から完全に撤去させた)。
💉3 GIP=グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド。GIP/GLP-1受容体作動薬はGLP-1受容体作動薬と比べて、血糖値の改善や体重の減少効果が大きいことが臨床試験などで示されている、とされる。なお、GIPとGLP-1は、インクレチンと呼ばれる。
💉4 糖尿病治療として使う場合は、マンジャロ。肥満症治療薬として使う場合は、ゼップバウンド。
💉5 3つのペプチド・ホルモン「GLP-1、GIP、グルカゴン」に対する受容体、という意味。
(3) 肥満症治療薬・新規開発の方向性
 一つの方向性は、経口薬の開発。皮下注射薬としては、長期間化(週1)・超長期間化(月1)。物質としては、アミリン💉6・アナログ💉7、グルカゴン・アナログ、GLP-1アナログの開発がある。
💉6 アミリンは、満腹感を引き起こすホルモンとして知られており、膵臓のβ細胞がインスリンとともに産生する。肥満症治療薬の文脈では、アミリン・アナログは、一般的にアシル化したアミリンを指す(と思われる)。アシル化したアミリンの類似化合物としては、プラムリンタイドが、2005年にインスリン治療補完薬としてFDA承認された。武田薬品は2009年11月、最大10億ドルのマイルストーン払いという契約で、全世界の独占開発・販売権を取得したが、11年8月に開発を断念した。ただ時は経ち、長期間作用するプラムリンタイドとして、カグリリンチドが開発された。GLP-1受容体作動薬とカグリリンチドを組み合わせた、カグリセマという薬剤が開発されている(ノボ・ノルディスクによって開発中)。
※ アシル化とは、有機化合物のヒドロキシル基、アミノ基、芳香環などの水素をアシル基(R-CO-)で置換することを指す。
💉7 製剤の文脈では、類似化合物のことをアナログというらしい。グルカゴン・アナログ、GLP-1アナログも同じという理解。
(4) メッツェラの強み 
❶ 総論
 完全バイアス型💉8GLP-1受容体作動薬を基盤として、最適比率で個々のNuSHアナログ・ペプチド💉9を組み合わせる、という「擦り合わせの妙」に競争優位性があると主張している。
💉8 完全にバイアス作動する、と言う意味。受容体一つに対して、複数のシグナル伝達経路が存在する。完全にバイアス作動とは、その内の一つのシグナル伝達経路だけを優先的に活性化させる、という意味である。つまり効き目ありで副作用無し、と言っている。
💉9 NuSH(栄養刺激性ホルモン)とは、腸脳軸(あるいは脳腸相関)に沿って作用し、食欲、インスリン産生、その他の代謝パラメータを調節することが知られているホルモン経路のファミリーを指す。言わずもがな、GLP-1やGIPを含む。NuSHアナログ・ペプチドは、アミリン・アナログやグルカゴン・アナログなどを指していると思われる。
❷ 各論 
㊀MINT・・・  約20,000種類に及ぶNuSHアナログ・ペプチドのライブラリー。
㊁HALO™・・・  NuSHアナログペプチドの半減期を延長する技術。低頻度投与や忍容性💉10の向上につながる。
㊂MOMENTUM・・・NuSHアナログペプチドの経口吸収率と生物学的利用能を向上。
💉10 薬剤の副作用に患者がどの程度耐えられるか、を表す概念。
❸ パイプライン 
①MET-097i(第2b相臨床試験)・・・完全バイアス型GLP-1受容体作動薬。週1/月1回投与。
②MET-233i(第1相臨床試験) ・・・アミリン・アナログ。月1回投与。
③①+②(第1相臨床試験)  ・・・月1回投与。
④MET-002(第1相臨床試験) ・・・経口GLP-1受容体作動薬。
⑤MET-224o/097o(IND申請中)・・・完全バイアス型経口GLP-1受容体作動薬。
⑥MET-034i(IND申請中)   ・・・GIP受容体作動薬。
⑦MET-067i(IND申請中)   ・・・グルカゴン・アナログ。
⑧MET-815i(IND申請中)   ・・・MET-097iのプロドラッグ💉11
💉11 体内に入ってから疾患部位に到達するまでの間に、薬効成分が分解されないように化学構造を変換した薬。
*74 買収の経緯そして顛末:
0⃣ ファイザーは、副作用が大きいとして、23年に経口GLP-1受容体作動薬ロチグリプロン及び、ダヌグリプロンの開発を停止した(25年4月に中止)。世界の抗肥満薬市場規模は、2023年にUS$4.51bilと評価され、将来に渡り高い成長(ダブル・ディジット)が見込まれていた。ゆえに、この市場を逃すという選択肢は、ファイザーにはなかった。
1⃣ ファイザーは、メッツェラとの間で買収合意に達したことを発表(25年9月22日)。両社の取締役会が全員一致で承認。買収価額は全て現金で、US$47.5/株+CVR:US$22.5/株💉12、合計US$70/株。ちなみに、F/Aはファイザーがシティ・グループ。メッツェラは、ゴールマン・サックス他3社。出典:https://www.pfizer.com/print/pdf/node/562348
💉12 MET-097i+MET-233i併用療法(つまり③⤴)の第3相臨床試験開始時にUS$5/株、FDA承認時にUS$10.5/株。MET-097i(つまり①⤴)のFDA承認時にUS$7/株。
2⃣ メッツェラ取締役会は、外部弁護士および財務アドバイザーとの協議の結果、ノボ・ノルディスクから受けた非拘束的な買収提案が、メッツェラとファイザーとの既存の合併契約に定義される「優れた会社提案」に該当すると判断したと発表(25年10月30日)。提案価額は(全て現金で)、US$56.5/株💉13+CVR:US$21.25/株=US$77.75/株。これは、ファイザーとの取引が発表される前の最終取引日(25年9月19日)終値に対して約133%のプレミアム。出典:https://investors.metsera.com/node/7071/pdf
💉13 正確に言うと、株式に対して現金を支払うというシンプルな形ではなく、少々複雑であるが、割愛。
3⃣ ファイザーは、以下のような行動を起こした:
⓵口火| ファイザーは2⃣を受け、即日(10月30日)、ノボ・ノルディスクの提案は「優れた会社提案」ではないと主張し、あらゆる法的手段を講じる用意があると宣言した。出典:https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-addresses-proposal-metsera
⓶競争法| 31日に、米国連邦取引委員会が、ファイザーによる買収に関して、米競争法(1976年ハート・スコット・ロディノ反トラスト改正法)に基づく待機期間の早期終了を承認したことを発表。出典:https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-receives-early-clearance-us-federal-trade-commission
⓷提訴| 31日に、デラウェア州衡平法裁判所に対し、メッツェラ(及びその取締役会)、並びにノボ・ノルディスクを相手取って訴訟を提起したことを発表。提訴理由は、メッツェラがファイザー社との合併契約に基づく義務に違反したことによる契約違反、受託者義務違反、および契約上の不法妨害行為。意図的に競争法審査を回避するために設計された前例のない構造を利用しており、支払いスキーム💉14も法律に触れる、と主張。
 さらに、11月3日には、2件目の訴訟を起こした💉15
💉14 買収対価(US$56.5/株の部分→US$62.2/株に増額)を、普通株式に対する特別配当という形で支払う。これがデラウェア州法に違反する、とファイザーは主張。
💉15 シャーマン法1条(反競争的な取引制限共謀)及び2条(独占未遂および独占共謀)、並びにクレイトン法7条(企業結合についての事前届出)に抵触したと主張。
⓸価格調整| そして、買収対価を調整した。US$47.5/株をUS$60/株に、CVRをUS$22.5/株からUS$10/株に引き下げた。総額はUS$70/株で変わらない。さらに、ファイザーは、㈠CVRに関してノボ・ノルディスク提案と同様の商業的に合理的な努力基準を採用し、㈡メッツェラの株主に対し、取引契約締結時にメッツェラの普通株式の14.9%をファイザーに売却することを義務付け、㈢メッツェラに対し『ノボ・ノルディスク提案は容認できないほど高いリスクを伴い、実現不可能である』と表明するプレスリリースを発表することを義務付けた。出典:https://investors.metsera.com/node/7121/pdf(4⃣の資料と同じ。誤植ではない。ファイザー発の資料はない、と思われる)
4⃣ ノボ・ノルディスクは、3⃣を受け修正提案を提出した(25年11月4日)。買収価額は、US$56.5/株+CVR:US$21.25/株=US$77.75/株を、US$62.2/株+CVR:US$24/株=US$86.2/株にまで引き上げた(プレミアムは約159%)。出典:https://investors.metsera.com/node/7121/pdf
5⃣ デラウェア州衡平法裁判所は、ファイザー社の仮差止命令の申立てを却下(25年11月5日)。一方FTCは、メッツェラとノボノルディスクの両社に書簡を送付し、「同様の構造を持つ過去の事例がハート・スコット・ロディノ法の下で違法と判断され、違法なガン・ジャンピング💉16に該当する可能性があることを指摘」した、と主張。出典:https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-responds-delaware-chancery-court-ruling
6⃣⃣ 5⃣のFTC書簡が効いたのだろうか。25年11月7日、メッツェラ取締役会は全会一致で、修正されたファイザー合併契約の承認およびファイザーとの合併承認をメッツェラ株主に推奨した。両社は11月13日の株主総会後速やかに取引を完了する予定。最終的な買収価額は、メッツェラ株1株あたり最大US$86.25/株=US$65.60/株+US$20.65/株。競合提案に対して、わずか、US$0.05/株だけ高い。出典:https://investors.metsera.com/node/7156/pdf
💉16 ガン・ジャンピングとは元々、陸上競技等でいうフライング(スタート)の意味。M&Aの文脈では、案件完了前に当事会社同士が行ってはいけない行為への規制を意味し、競争法上の違反行為に該当する。
7⃣ 今後日本でも、このような「ガチンコの殴り合い」が起きる可能性は、十分にあるだろう。その意味で、学習事例としては面白いだろう。ただ、忘れてはならないポイントは、最終的な買収価額は競合提案よりも高い、という点であろう。エコノミクス的に言うと、2月初旬の公開から約9か月で、65.6/18=3.64倍である。これぞアメリカン○○という感じで、日本も目指すべき姿だろう。
 なお、『ノボ・ノルディスクが提案する取引は、ファイザーとの合併案と比較して、メッツェラ及びその株主にとって容認できないほど高い、法的および規制上のリスクを伴うと判断した』という文をプレスリリースに見つけることができる。これは、3⃣⓸㈢の『・・・』と同じであり、ファイザーが書かせたのだろう(徹底している)。
8⃣ まとめると、ファイザーとノボ・ノルディスクは、経口薬と月一投与の皮下注射薬が欲しくてメッツェラを奪い合い、ファイザーが死守した。
*75 CVR条件
 最終的なCVR、US$20.65/株の内訳は明らかにされていないと思われるが、💉12を微調整したと考えられる。
*76 様々な量子技術を開発しているスタートアップ。開発した技術は特許を取得(IP(知的財産)化)し、取得特許のマネタイズ(社会実装)は、個別に設立する子会社に任せる、というビジネスモデルを採用する。Quantum X LabsはIP管理会社という位置付けで、子会社はポートフォリオという位置付け。
 開発している技術分野は4つである:㊀量子誤り訂正における復号。機械学習ベースの復号器を開発している。㊁量子技術を使った、臨床試験データ分析プラットフォームを開発している。㊂GPSに依存しない慣性航法における精度向上の鍵を握る技術として、量子ジャイロ・スコープを開発している。㊃サイバーセキュリティ。詳細は明らかにされていない。
㊀ Quantum Transportationという名の子会社が、マネタイズを行っている。誤解を生む名前であるが、輸送会社ではない。量子誤り(典型的には、ビット反転誤りと位相反転誤り)は、(パリティ検査あるいはシンドローム測定によって)検出した後、正しい状態に戻さなければならない。この正しい状態に戻す操作が復号である。IBMやグーグルは、量子コンピューティングに関する全ての技術を自社開発しているから、当然復号技術の開発も行っている。グーグルはAlphaQubitという"ブランド名"まで付けている。ベンダー色なしで、復号技術を開発している企業としては、英リバーレーンが有名である。リバーレーンの競合ということになるだろう。復号アルゴリズムには、様々なアルゴリズムが存在するし、量子誤り訂正(QEC)符号との相性もある。表面符号であれば、最小重み完全マッチング。qLDPC符号であれば、信念伝播と相性が良いとされる。他には、順序統計量事後処理ステップ復号(OSD)、ambiguity(曖昧性)クラスタリング、衝突クラスタリング、Union-Find、局所クラスタ復号などがある。さらに、機械学習ベースの復号器が存在する。AlphaQubitは、機械学習(トランスフォーマー)ベースの復号器である。機械学習ベースの復号器には、以下のような欠点が指摘されている:(a)スケールアップに伴う学習要件がキツイ、(b)復号速度が不十分、(c)QEC符号によって性能差がある。
㊁ CliniQuantumという名の子会社が、マネタイズを行っている。当該分野において、25年12月24日に、米国特許を申請している。今日の臨床試験は、平均的な治療効果が真実を表すという前提に基づき、ランダム化と線形統計解析に依存している。しかし実際は、患者は生物学的に異質であり、遺伝子、代謝、分子ネットワークは大きく異なる。ただ現状の技術では、そのような異質な個々の部分集団を臨床データ内で探索する場合、サンプルサイズが統計的に不十分となり、確固たる結論を導き出すことができない。つまり、多くの有望な治療法が、現在の分析フレームワークでは、その効果がどこで、誰に有効であるかを明らかにできないために失敗している。具体的には、量子マルコフ連鎖モンテカルロ法を使って、部分集団を堅牢に推定する技術を開発していると考えられる。量子回路から生成される、古典では表現することが難しい確率分布を使うことで、堅牢な推定が期待できるのであろう。
㊂ Quantum Gyroという名の子会社が、マネタイズを行っている。正確には、核磁気共鳴(NMR)ジャイロスコープを開発している。NMRジャイロスコープは、核磁気モーメントが印加磁場の周りを回転する際のラーモア周波数のシフトとして回転を感知する。固有技術により、該社のジャイロスコープは、精度が高く(バイアス並びにドリフトが小さい)、消費電力と装置サイズを大幅に削減できる、と主張。26年1月6日に「技術的なブレークスルーを達成した」と発表(https://www.globenewswire.com/news-release/2026/01/06/3213609/0/en/Viewbix-Quantum-X-Labs-Announces-Breakthrough-in-the-Development-of-a-Quantum-Gyroscope-Chip-Technology.html)。GPSは、悪意のある攻撃者によって運行上の安全が脅かされる可能性が指摘されるようになっており、GPSに依存しない航法が強く求められている。特に、軍事分野においては喫緊の課題である。
㊃ QuantumQ Securityという名の子会社が、マネタイズを行っている。が、詳細は開示されていない。
*77 米NASDAQ上場企業Viewbixは、子会社であるGix Media及びMetagramm Softwareを通じて、デジタル広告分野で事業を展開している(ので、量子技術開発スタートアップを買収する意味があるのか不明)。Gix Mediaは、インターネットユーザーからのトラフィック獲得と顧客への誘導を目的として、インターネットキャンペーンの自動化、最適化、収益化を実現する様々な技術ソフトウェアソリューションを開発している。Metagrammは文法エラー修正ソフトウェアの開発会社で、機械学習技術を活用し、ライティングとレビュー、文法、スペル、句読点、スタイル機能、翻訳、多言語辞書などのツールを提供している。自社サイトは、Financial Statementsを含めて、2023年以降更新されていない(ので、経済活動を行っているのか不明)。
*78 正確にはワラント(新株予約権)を含むが、簡便さを優先して「株式」と表記した。ワラントの行使価格は、$0.0001/株。全て行使されるまで、失効しない。
*79 以下のアーンアウト条件に従って、新たに株式が発行される。出典:https://app.quotemedia.com/data/downloadFiling?webmasterId=90423&ref=319683925&type=HTML&symbol=VBIX&cdn=3cde755bf944ca688a4d38853ec3d451&companyName=Viewbix+Inc.&formType=PRE+14C&formDescription=Other+preliminary+information+statements&dateFiled=2026-01-05
1⃣ Quantum X Labsまたはそのポートフォリオ企業(つまり、*76の㊀~㊃)が、クロージング日から18ヶ月間に、量子セクター内の少なくとも3つの異なるサブ・フィールドにわたって、仮出願を含む合計5件の特許出願を提出した場合。最大1,975,998株の株式を発行する。
2⃣ Quantum X Labsのポートフォリオ企業の上場、公募、またはM&A取引の完了時に、完了日から24か月間、少なくともUS$20milのプレマネー評価額で、最大3,436,519株の株式を発行する。
3⃣ ①若しくは②のいずれか早い方の時点で、最大7,290,330枚の株式を発行する:
① ViewbixまたはQuantum X Labsのいずれかに少なくともUS$10milの資本増強が行われ、資金調達前の評価額がUS$250mil以上となること。
② クロージング日から48か月間に、資金調達前の評価額がUS$250mil以上となるQuantum X LabsのM&A取引が完了すること。

❑ 参考文献 ❑
服部暢達、ゴールドマン・サックスM&A戦記ー伝説のアドバイザーが見た企業再編の舞台裏、日経BP、2018

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